『ナンネル・モーツァルト―哀しみの旅路』を観ました。
2011/05/25
今日は、ひさしぶりに映画館に行ってきました。
PotC4も観たいのですが、今日観てきたのは、『ナンネル・モーツァルト―哀しみの旅路』。
このあいだの記事で紹介した映画です。
映画の公式サイトはこちら
音が出ますので、ご注意を!
以下、ネタばれありで、濃ゆ~く感想を語ります!
最後に、白髪くるくるカツラの評価もあります(笑)
PotC4も観たいのですが、今日観てきたのは、『ナンネル・モーツァルト―哀しみの旅路』。
このあいだの記事で紹介した映画です。
映画の公式サイトはこちら
音が出ますので、ご注意を!
以下、ネタばれありで、濃ゆ~く感想を語ります!
最後に、白髪くるくるカツラの評価もあります(笑)
この映画…このあいだも書きましたが、モーツァルトの姉であるマリーア・アンナ(通称ナンネル)が主人公です。
ストーリーは、女性であるがゆえに、音楽の才能に恵まれながらも、その才能を開花させることができず、天才モーツァルトの姉として、18世紀という時代の犠牲となったナンネルの思春期を描いています。
実際、ナンネルは幼い頃、弟ヴォルフガングとともに、各地の宮廷を演奏してまわって、賞賛を浴びていました。
彼女自身、作曲をしたこともあると言われ、その作品は残っていないものの、音楽の才能に恵まれていたとされています。
ただし、当時は、女性が音楽家になるなんて、考えられない時代。
そうでなくても、音楽史をたどってみても、有名な音楽家(演奏家は別)はほとんど男性ばかりです。
結局、ナンネルは、弟の栄光の陰でひっそりと忘れ去られた存在であり、モーツァルトという存在がなければ、後世に名前が残ることもなかったような女性なわけで。
…この映画は、そんなナンネルの思春期、夢を犠牲にして生きることになった経緯を想像して作られた作品です。
***
モーツァルト一家はヨーロッパ中を演奏旅行してまわったことで有名ですが、これはフランス映画ということもあって、彼らがフランスに滞在した時期を描いています。
この映画で描かれているのは、1763年(ナンネル11歳、ヴォルフガング7歳)から1766年(ナンネル14歳、ヴォルフガング10歳)にわたる西方大旅行の時期のようです。
モーツァルト一家がパリに滞在したのは、1763年から1764年にかけての時期と1766年の2回ですが、映画では最初のヴェルサイユ訪問のときにすでにヴォルフガングが10歳くらいだと説明されていたので、そのあたりは脚色されているみたいです。
脚色といえば、映画では、一家がパリを発ってロンドンに行ったときに、ナンネルが1人パリに残って自立を企てる…というストーリーになっていましたが、実際は、もちろん、ナンネルは一家とともにロンドンに向かっています。
そりゃ、11歳の女の子1人パリに残していくわけにはいかんわな…。
しかも、いくらなんでも11歳の女の子が音楽を教えて生計を立てる…なんて、無茶です。
まあ、映画では、そのときのナンネルは14、15歳という設定なのですが。
このように、映画はかなりフィクションの部分が大きいです。
映画の中でナンネルが恋する王太子ルイ・フェルディナン(ルイ15世の息子)や、ナンネルと友情を育むことになる王女ルイーズにしても、年齢設定が史実と違います。
ヴォルフガングは、たしかマリー・アントワネットとほぼ同じくらいの年齢なので、そのマリー・アントワネットの夫となるルイ16世の父親である王太子ルイ・フェルディナンは、ナンネルにとっては父親ほど年の離れた男性だったはずです。
王女ルイーズもしかり。
まあ、それ以前に、王太子と外国人の一音楽家の娘との恋愛…って、それ自体ありえないことなのですが。
とはいえ。
映画は映画。
フィクションなので、そういった脚色はそれほど気にはなりませんでした。
全体としては、史実と脚色がうまい具合にまざってたかな…という印象があります。
全体に、脚色の部分が多いのですが、バランスよく史実が織り込まれているので、そこそこリアリティがありました(王太子との恋や王女との友情は別として)。
***
違和感があまりなかったのは、モーツァルト一家のメンバーの人となりが、とても自然だったから…という気がします。
主人公がナンネルということもあって、弟ヴォルフガングの出番はそれほど多くはないのですが、才能に恵まれながらも、年相応の愛らしさをもつ子供として描かれていて、好感がもてました。
下手に「神童」ってところを強調しすぎることなく、あくまで普段は普通の子供として描かれていたのが良かったと思います。
ヴォルフガングが主人公の映画の場合、どうしても彼自身、エキセントリックに描かれてしまう傾向があるんじゃないかと思うんですが、私としては、彼は、理性的ではなかったかもしれないけど、とても人間臭い、18世紀の庶民だったんじゃないかと思ってるので。
それから、レオポルトも、息子の才能に巨大な期待をよせる一方、ナンネルには女性であるという理由から保守的な考えを押しつけるわけですが、その反面、子供たちに対して愛情をもっているのが伝わってきて、私の中のレオポルト像とはなじむ部分が大きかったです。
彼は、権威主義的で自分勝手なところもあったわけですが、愛情なしに、自分の夢を子供に押しつけるだけの父親だったとは思いたくないので。
あ、あとレオポルト役の俳優さんも、雰囲気がわりとイメージと近くて、良かったです。
白髪カツラと三角帽もお似合いでした。
肖像画のレオポルトは、もうちょっと冷たい感じかな?
母親アンナ・マリーアは…ルックスがちょっとイメージと違いました。
細くて美人な女優さんが演じていたのですが、肖像画の感じからすると、私はもうちょっとふくよかなドイツ婦人っぽい人を想像してます。
でも、子供たちに愛情深い母親…というところは、イメージと近かったです。
レオポルトと仲が良いところも。
映画は、家族の場面が多く、その中で、ナンネルは葛藤を経験するのですが、それでも家族には愛情があふれていて、その存在感の大きさが印象に残りました。
映画では、ナンネルは、一度は家族を捨てて、夢と恋に生きることを決意するわけですが、結局は家族のもとに戻って、夢も恋も失った一生を送ることになります。
それは、時代に流されてしまった…と言ってしまえば簡単ですが、果たしてそれだけなのか…という気がします。
ナンネルは、結局、家族を捨てられなかったし、恋に傷ついた彼女を受けとめてくれるのも家族だった…。
家族とともにいることを選んだ結果、彼女が失ったものはとても大きかったけれど、それも1つの選択というか。
フランス映画だからかもですが、ナンネル自身、その選択をしたことに対して、どう思っていたのか、納得していたのか、後悔の方が大きかったのか…そういった部分は語られないので、いろいろ想像の余地があります。
弟ヴォルフガングと無邪気にじゃれあう場面や、遅く帰った彼女を両親がとても心配する場面、病気で倒れた彼女を家族で心配する場面…などなど、モーツァルト一家の普通の家族としての場面が印象的でした。
映画自体、ルネ・フェレ監督が自分の家族メンバーをフル活用して(ナンネル役・王女役は監督の娘さん)制作したってことも関係してるのかもですが、この「家族」というのが、映画の1つのテーマになってるように思えました。
***
映画のテーマといえば、やはり1番大きなテーマは、女性の生き方…というようなところにあるんじゃないかと。
彼女は、結局、自分の人生を生きることができず、「モーツァルトの姉」というのが、彼女の最大の肩書なわけで。
皮肉な話ですが、この映画が作られたのだって、彼女がモーツァルトの姉だったからですよね。
そうでなければ、ナンネルという人は、歴史の中で忘れ去られた女性の1人にすぎません。
いろいろな制約から、そういうふうにしか生きられなかったナンネル。
映画の中では、彼女と親友になる王女ルイーズが、「もし私たちが男性だったら…」という話をするのが、印象に残っています。
***
映画は、ドラマティックな展開といえばそうなんですが、そんな展開のわりには、ずっと淡々と進んでいきました。
そんな中で、1番ぐっときたのは、ラストでした。
ラストは、パリ旅行を終えて、ザルツブルクへ帰るモーツァルト一家が馬車で話す場面でした。
レオポルトは、ウィーンの音楽家にヴォルフガングを認めさせるために、次はオペラの作曲に取り組むという計画を話します。
そんな中、夢を追いかけることをあきらめたナンネルのアップが映しだされ…。
バックでは、ナンネルが作曲したという設定の音楽が流れるんですが、この曲…ゆっくりしたテンポの短調から、速いテンポの長調の部分へとぐっと盛りあがるようになっています。
そして、下に、字幕で彼女のその後の人生が説明されます。
そこで説明されるのは、ほぼ史実どおり。
ナンネルは、結局、父親のもとで暮らし、30歳を過ぎてから、レオポルトの計らいで、5人の子持ちの男爵、ヨハン=バプティスト・フォン・ベルヒトルト・ツゥー・ゾンネンブルクと結婚しました。
彼は、ナンネルよりも15歳ほど年上で、すでに2度結婚経験のある男性でした。
それでも恋愛結婚ならよかったものの、そうではなく…。
1年後には、ナンネルは男の子、レオポルト=アロイス=パンタレオンを産みましたが、その子は、すぐに父レオポルトが引きとって育てることになり、ザンクト・ギルゲンに暮らすナンネルは、わが子にめったに会うことができませんでした。
レオポルトは、思い通りにならなかった息子ヴォルフガングに代わって、孫のレオポルトちゃんを第2の天才音楽家に育てようと思ったようですが…。
映画では、そのレオポルトちゃんがヴォルフガングのような才能ある音楽家には育たなかった…ということだけが説明されていましたが、そもそも、レオポルトは、レオポルトちゃんが2歳の頃に亡くなってしまったので、音楽教育なんてほとんど不可能だったのではないかと…。
ナンネルは、レオポルトちゃんの他に2人の娘ももうけましたが、どちらも早くに亡くなっています。
レオポルトちゃんは、ナンネルよりも長生きしたようですが…。
ナンネルは、78歳まで生き、晩年は失明したということですが、いずれにせよ、弟の死後は、その音楽的遺産を後世に残すことに尽力したとか。
コンスタンツェとの結婚後、ヴォルフガングとナンネルは疎遠になったということだったと思いますが、もともと仲の良い姉弟だったわけなので、これは彼女にとってはやりがいのある仕事だったのかもしれません。
結局、彼女は家族のために人生を捧げたわけですが、そんな家族のほとんどが、弟も含めて、彼女よりも先に亡くなってしまったのが悲しいですね。
***
映画で1つよく分からないのは、王太子ルイとナンネルの別れの場面。
王太子は、ナンネルと惹かれあいながらも、立場上の縛りもあって、ナンネルとの別れを選びます。
…が、その後、再び訪ねてきたナンネルにキスさせておいて、突如、キレて、自分を堕落させようとした…とかなんとか言って、二度と顔も見たくないとか怒鳴って部屋から追い出すわけで。
…???
一緒に観にいったうちの母は、あれはナンネルをあきらめさせてきっぱり別れるための演技だったんじゃないか…と言ってました。
が、私にはそう思えない。
王太子は、父王のルイ15世の放蕩ぶりに嫌悪感を持っていて、それを忌み嫌う一方、自分もそうなってしまうんじゃないか…という、精神的に不安定な状態にあるように描かれていました。
なので、ナンネルにキレたのも、そのあたりが関係してるんじゃないかと。
どちらにしても、特に説明されないまま終わってしまったので、よく分からなかったです。
***
そうそう。
モーツァルティアンとしては、「おっ!」と思った場面が。
王太子とナンネルがはじめて会った場面で、王太子が彼女(男装中)に歌わせたのが、アレグリのミゼレーレ。
この曲…門外不出だったのを、ヴォルフガングが耳コピした…っていう伝説の曲ですよね。
***
あと、印象に残ったのが、馬車での旅の大変さ。
本なんかで読むと、それほどピンとこないんですが、実際に映像で見ると、これは大変だわ…と思いました。
モーツァルト一家は、年中、馬車で旅をしてたわけですが、当時は道路事情だってよくないし、馬車は当然ものすごく揺れるわけで…。
こんなんで旅し続けてたら、そりゃあ体調も崩すわ…と実感。
***
ここまで、いたって真面目に感想を書いてしまいました。
最後に、語らずに終われないのが、白髪くるくるカツラについてです。
この映画…18世紀が舞台なので、当然白髪くるくるカツラが登場します。
白髪くるくるカツラ評価は、私的に、★★★☆☆というところでしょうか。
密着度は低く、あくまでカツラ…という感じです。
生え際の処理も、地毛っぽさはありません。
…が、まあ、不自然というほどでもなく。
似合っていたのは、レオポルトとナンネル男装バージョンです。
ナンネル役の役者さんは、まつ毛の長い愛らしい美人さんだったので、男装も麗しかったです。
白髪カツラをかぶっても、特に違和感もなく、可愛い少年風でした。
あと、白髪カツラじゃなく、地毛(茶色)で、くるくる1個に結ってたのが良かったです。
いただけなかったのは、王太子ルイです。
サイドがきちっとしたロールではなく、もじゃもじゃっとした感じだったのがイマイチ。
そして、いかにも白塗りっぽい顔が、ちょっと怖かった…。
ナンネルが、映画の中で、とても整った顔…みたいなことを手紙に書いてるんですが、納得いかなかった…。
それから、白髪くるくるカツラマニアとして強烈に印象に残ったのが、部屋に帰ってきたレオポルトが、かぶってたカツラをぽいっとはずして、ドアの近くのカツラかけ?(帽子かけみたいなの)にぽいっとかけたことです。
おおっ!帽子感覚!!
なるほど、こうするのか…。
そうそう!
白髪カツラだけでなく、巨大袖とコートの裾揺れもたっぷり堪能できましたw
***
…と、長くなりましたが、感想はこんなところでしょうか。
フランス映画のわりには、それほどクセもなく、終わり方もそれほど中途半端でもなく、なじみやすかったです。
上にも書きましたが、淡々とした映画ではありますが、それなりに抑揚があって、飽きることはなかったです。
ただし、私自身が、自称モーツァルト・マニア、18世紀Lover、白髪くるくるカツラ&18世紀衣装ファン…という人間なので、普通の人と違うところで楽しんじゃってるせいもあるかもですが…。
それに当てはまらない人でも楽しめるのかどうかは…よく分かりません。
まず、モーツァルティアンなら、見て損はない映画だと思います。
ただし、ヴォルフガングの出番はそれほど多くないです。
18世紀の衣装好きでも、見て損はないと思います。
衣装のセンスもなかなか良かったです。
それから、上に書き忘れましたが、ヴェルサイユでロケしたらしく、映像はゴージャスです。
あと、エンドクレジットを見たら、シャンティイかどっかも使ったって書いてありました。
衣装・部屋・調度品など、目を楽しませてくれる映画だと思います。
それから、クラヴサン(チェンバロ)を中心にした音楽も、18世紀の雰囲気がよく出ていて、とても美しかったです。
姉弟が一緒に弾いてる曲とか、良かったですw
…というところで、興味をもたれた方は、ぜひ観てみてくださいね!
個人的には、おすすめしたい映画です。
ストーリーは、女性であるがゆえに、音楽の才能に恵まれながらも、その才能を開花させることができず、天才モーツァルトの姉として、18世紀という時代の犠牲となったナンネルの思春期を描いています。
実際、ナンネルは幼い頃、弟ヴォルフガングとともに、各地の宮廷を演奏してまわって、賞賛を浴びていました。
彼女自身、作曲をしたこともあると言われ、その作品は残っていないものの、音楽の才能に恵まれていたとされています。
ただし、当時は、女性が音楽家になるなんて、考えられない時代。
そうでなくても、音楽史をたどってみても、有名な音楽家(演奏家は別)はほとんど男性ばかりです。
結局、ナンネルは、弟の栄光の陰でひっそりと忘れ去られた存在であり、モーツァルトという存在がなければ、後世に名前が残ることもなかったような女性なわけで。
…この映画は、そんなナンネルの思春期、夢を犠牲にして生きることになった経緯を想像して作られた作品です。
***
モーツァルト一家はヨーロッパ中を演奏旅行してまわったことで有名ですが、これはフランス映画ということもあって、彼らがフランスに滞在した時期を描いています。
この映画で描かれているのは、1763年(ナンネル11歳、ヴォルフガング7歳)から1766年(ナンネル14歳、ヴォルフガング10歳)にわたる西方大旅行の時期のようです。
モーツァルト一家がパリに滞在したのは、1763年から1764年にかけての時期と1766年の2回ですが、映画では最初のヴェルサイユ訪問のときにすでにヴォルフガングが10歳くらいだと説明されていたので、そのあたりは脚色されているみたいです。
脚色といえば、映画では、一家がパリを発ってロンドンに行ったときに、ナンネルが1人パリに残って自立を企てる…というストーリーになっていましたが、実際は、もちろん、ナンネルは一家とともにロンドンに向かっています。
そりゃ、11歳の女の子1人パリに残していくわけにはいかんわな…。
しかも、いくらなんでも11歳の女の子が音楽を教えて生計を立てる…なんて、無茶です。
まあ、映画では、そのときのナンネルは14、15歳という設定なのですが。
このように、映画はかなりフィクションの部分が大きいです。
映画の中でナンネルが恋する王太子ルイ・フェルディナン(ルイ15世の息子)や、ナンネルと友情を育むことになる王女ルイーズにしても、年齢設定が史実と違います。
ヴォルフガングは、たしかマリー・アントワネットとほぼ同じくらいの年齢なので、そのマリー・アントワネットの夫となるルイ16世の父親である王太子ルイ・フェルディナンは、ナンネルにとっては父親ほど年の離れた男性だったはずです。
王女ルイーズもしかり。
まあ、それ以前に、王太子と外国人の一音楽家の娘との恋愛…って、それ自体ありえないことなのですが。
とはいえ。
映画は映画。
フィクションなので、そういった脚色はそれほど気にはなりませんでした。
全体としては、史実と脚色がうまい具合にまざってたかな…という印象があります。
全体に、脚色の部分が多いのですが、バランスよく史実が織り込まれているので、そこそこリアリティがありました(王太子との恋や王女との友情は別として)。
***
違和感があまりなかったのは、モーツァルト一家のメンバーの人となりが、とても自然だったから…という気がします。
主人公がナンネルということもあって、弟ヴォルフガングの出番はそれほど多くはないのですが、才能に恵まれながらも、年相応の愛らしさをもつ子供として描かれていて、好感がもてました。
下手に「神童」ってところを強調しすぎることなく、あくまで普段は普通の子供として描かれていたのが良かったと思います。
ヴォルフガングが主人公の映画の場合、どうしても彼自身、エキセントリックに描かれてしまう傾向があるんじゃないかと思うんですが、私としては、彼は、理性的ではなかったかもしれないけど、とても人間臭い、18世紀の庶民だったんじゃないかと思ってるので。
それから、レオポルトも、息子の才能に巨大な期待をよせる一方、ナンネルには女性であるという理由から保守的な考えを押しつけるわけですが、その反面、子供たちに対して愛情をもっているのが伝わってきて、私の中のレオポルト像とはなじむ部分が大きかったです。
彼は、権威主義的で自分勝手なところもあったわけですが、愛情なしに、自分の夢を子供に押しつけるだけの父親だったとは思いたくないので。
あ、あとレオポルト役の俳優さんも、雰囲気がわりとイメージと近くて、良かったです。
白髪カツラと三角帽もお似合いでした。
肖像画のレオポルトは、もうちょっと冷たい感じかな?
母親アンナ・マリーアは…ルックスがちょっとイメージと違いました。
細くて美人な女優さんが演じていたのですが、肖像画の感じからすると、私はもうちょっとふくよかなドイツ婦人っぽい人を想像してます。
でも、子供たちに愛情深い母親…というところは、イメージと近かったです。
レオポルトと仲が良いところも。
映画は、家族の場面が多く、その中で、ナンネルは葛藤を経験するのですが、それでも家族には愛情があふれていて、その存在感の大きさが印象に残りました。
映画では、ナンネルは、一度は家族を捨てて、夢と恋に生きることを決意するわけですが、結局は家族のもとに戻って、夢も恋も失った一生を送ることになります。
それは、時代に流されてしまった…と言ってしまえば簡単ですが、果たしてそれだけなのか…という気がします。
ナンネルは、結局、家族を捨てられなかったし、恋に傷ついた彼女を受けとめてくれるのも家族だった…。
家族とともにいることを選んだ結果、彼女が失ったものはとても大きかったけれど、それも1つの選択というか。
フランス映画だからかもですが、ナンネル自身、その選択をしたことに対して、どう思っていたのか、納得していたのか、後悔の方が大きかったのか…そういった部分は語られないので、いろいろ想像の余地があります。
弟ヴォルフガングと無邪気にじゃれあう場面や、遅く帰った彼女を両親がとても心配する場面、病気で倒れた彼女を家族で心配する場面…などなど、モーツァルト一家の普通の家族としての場面が印象的でした。
映画自体、ルネ・フェレ監督が自分の家族メンバーをフル活用して(ナンネル役・王女役は監督の娘さん)制作したってことも関係してるのかもですが、この「家族」というのが、映画の1つのテーマになってるように思えました。
***
映画のテーマといえば、やはり1番大きなテーマは、女性の生き方…というようなところにあるんじゃないかと。
彼女は、結局、自分の人生を生きることができず、「モーツァルトの姉」というのが、彼女の最大の肩書なわけで。
皮肉な話ですが、この映画が作られたのだって、彼女がモーツァルトの姉だったからですよね。
そうでなければ、ナンネルという人は、歴史の中で忘れ去られた女性の1人にすぎません。
いろいろな制約から、そういうふうにしか生きられなかったナンネル。
映画の中では、彼女と親友になる王女ルイーズが、「もし私たちが男性だったら…」という話をするのが、印象に残っています。
***
映画は、ドラマティックな展開といえばそうなんですが、そんな展開のわりには、ずっと淡々と進んでいきました。
そんな中で、1番ぐっときたのは、ラストでした。
ラストは、パリ旅行を終えて、ザルツブルクへ帰るモーツァルト一家が馬車で話す場面でした。
レオポルトは、ウィーンの音楽家にヴォルフガングを認めさせるために、次はオペラの作曲に取り組むという計画を話します。
そんな中、夢を追いかけることをあきらめたナンネルのアップが映しだされ…。
バックでは、ナンネルが作曲したという設定の音楽が流れるんですが、この曲…ゆっくりしたテンポの短調から、速いテンポの長調の部分へとぐっと盛りあがるようになっています。
そして、下に、字幕で彼女のその後の人生が説明されます。
そこで説明されるのは、ほぼ史実どおり。
ナンネルは、結局、父親のもとで暮らし、30歳を過ぎてから、レオポルトの計らいで、5人の子持ちの男爵、ヨハン=バプティスト・フォン・ベルヒトルト・ツゥー・ゾンネンブルクと結婚しました。
彼は、ナンネルよりも15歳ほど年上で、すでに2度結婚経験のある男性でした。
それでも恋愛結婚ならよかったものの、そうではなく…。
1年後には、ナンネルは男の子、レオポルト=アロイス=パンタレオンを産みましたが、その子は、すぐに父レオポルトが引きとって育てることになり、ザンクト・ギルゲンに暮らすナンネルは、わが子にめったに会うことができませんでした。
レオポルトは、思い通りにならなかった息子ヴォルフガングに代わって、孫のレオポルトちゃんを第2の天才音楽家に育てようと思ったようですが…。
映画では、そのレオポルトちゃんがヴォルフガングのような才能ある音楽家には育たなかった…ということだけが説明されていましたが、そもそも、レオポルトは、レオポルトちゃんが2歳の頃に亡くなってしまったので、音楽教育なんてほとんど不可能だったのではないかと…。
ナンネルは、レオポルトちゃんの他に2人の娘ももうけましたが、どちらも早くに亡くなっています。
レオポルトちゃんは、ナンネルよりも長生きしたようですが…。
ナンネルは、78歳まで生き、晩年は失明したということですが、いずれにせよ、弟の死後は、その音楽的遺産を後世に残すことに尽力したとか。
コンスタンツェとの結婚後、ヴォルフガングとナンネルは疎遠になったということだったと思いますが、もともと仲の良い姉弟だったわけなので、これは彼女にとってはやりがいのある仕事だったのかもしれません。
結局、彼女は家族のために人生を捧げたわけですが、そんな家族のほとんどが、弟も含めて、彼女よりも先に亡くなってしまったのが悲しいですね。
***
映画で1つよく分からないのは、王太子ルイとナンネルの別れの場面。
王太子は、ナンネルと惹かれあいながらも、立場上の縛りもあって、ナンネルとの別れを選びます。
…が、その後、再び訪ねてきたナンネルにキスさせておいて、突如、キレて、自分を堕落させようとした…とかなんとか言って、二度と顔も見たくないとか怒鳴って部屋から追い出すわけで。
…???
一緒に観にいったうちの母は、あれはナンネルをあきらめさせてきっぱり別れるための演技だったんじゃないか…と言ってました。
が、私にはそう思えない。
王太子は、父王のルイ15世の放蕩ぶりに嫌悪感を持っていて、それを忌み嫌う一方、自分もそうなってしまうんじゃないか…という、精神的に不安定な状態にあるように描かれていました。
なので、ナンネルにキレたのも、そのあたりが関係してるんじゃないかと。
どちらにしても、特に説明されないまま終わってしまったので、よく分からなかったです。
***
そうそう。
モーツァルティアンとしては、「おっ!」と思った場面が。
王太子とナンネルがはじめて会った場面で、王太子が彼女(男装中)に歌わせたのが、アレグリのミゼレーレ。
この曲…門外不出だったのを、ヴォルフガングが耳コピした…っていう伝説の曲ですよね。
***
あと、印象に残ったのが、馬車での旅の大変さ。
本なんかで読むと、それほどピンとこないんですが、実際に映像で見ると、これは大変だわ…と思いました。
モーツァルト一家は、年中、馬車で旅をしてたわけですが、当時は道路事情だってよくないし、馬車は当然ものすごく揺れるわけで…。
こんなんで旅し続けてたら、そりゃあ体調も崩すわ…と実感。
***
ここまで、いたって真面目に感想を書いてしまいました。
最後に、語らずに終われないのが、白髪くるくるカツラについてです。
この映画…18世紀が舞台なので、当然白髪くるくるカツラが登場します。
白髪くるくるカツラ評価は、私的に、★★★☆☆というところでしょうか。
密着度は低く、あくまでカツラ…という感じです。
生え際の処理も、地毛っぽさはありません。
…が、まあ、不自然というほどでもなく。
似合っていたのは、レオポルトとナンネル男装バージョンです。
ナンネル役の役者さんは、まつ毛の長い愛らしい美人さんだったので、男装も麗しかったです。
白髪カツラをかぶっても、特に違和感もなく、可愛い少年風でした。
あと、白髪カツラじゃなく、地毛(茶色)で、くるくる1個に結ってたのが良かったです。
いただけなかったのは、王太子ルイです。
サイドがきちっとしたロールではなく、もじゃもじゃっとした感じだったのがイマイチ。
そして、いかにも白塗りっぽい顔が、ちょっと怖かった…。
ナンネルが、映画の中で、とても整った顔…みたいなことを手紙に書いてるんですが、納得いかなかった…。
それから、白髪くるくるカツラマニアとして強烈に印象に残ったのが、部屋に帰ってきたレオポルトが、かぶってたカツラをぽいっとはずして、ドアの近くのカツラかけ?(帽子かけみたいなの)にぽいっとかけたことです。
おおっ!帽子感覚!!
なるほど、こうするのか…。
そうそう!
白髪カツラだけでなく、巨大袖とコートの裾揺れもたっぷり堪能できましたw
***
…と、長くなりましたが、感想はこんなところでしょうか。
フランス映画のわりには、それほどクセもなく、終わり方もそれほど中途半端でもなく、なじみやすかったです。
上にも書きましたが、淡々とした映画ではありますが、それなりに抑揚があって、飽きることはなかったです。
ただし、私自身が、自称モーツァルト・マニア、18世紀Lover、白髪くるくるカツラ&18世紀衣装ファン…という人間なので、普通の人と違うところで楽しんじゃってるせいもあるかもですが…。
それに当てはまらない人でも楽しめるのかどうかは…よく分かりません。
まず、モーツァルティアンなら、見て損はない映画だと思います。
ただし、ヴォルフガングの出番はそれほど多くないです。
18世紀の衣装好きでも、見て損はないと思います。
衣装のセンスもなかなか良かったです。
それから、上に書き忘れましたが、ヴェルサイユでロケしたらしく、映像はゴージャスです。
あと、エンドクレジットを見たら、シャンティイかどっかも使ったって書いてありました。
衣装・部屋・調度品など、目を楽しませてくれる映画だと思います。
それから、クラヴサン(チェンバロ)を中心にした音楽も、18世紀の雰囲気がよく出ていて、とても美しかったです。
姉弟が一緒に弾いてる曲とか、良かったですw
…というところで、興味をもたれた方は、ぜひ観てみてくださいね!
個人的には、おすすめしたい映画です。
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